2026.08.22 TOKYO PRO Market 監査法人・J-Adviser対応

J-Adviserが決まった後、会社側でやることの全一覧【TOKYO PRO Market上場準備】

TOKYO PRO Market(TPM)への上場を目指す企業にとって、J-Adviserとの契約は大きな一歩です。しかし実務の現場では、契約後にこう感じる経営者が少なくありません。

「J-Adviserと契約したのに、思ったより準備が進まない」

これは珍しいことではなく、構造的な理由があります。本コラムでは、J-Adviser契約後に会社側でやるべきことを、フェーズ別に整理します。上場準備の全体像を掴む参考にしてください。

なぜ「契約後」に止まるのか

まず前提の整理です。J-Adviserは東京証券取引所から認定を受け、上場の指導・審査・モニタリングを担う存在です。上場準備における助言と、上場適格性の調査・確認がその役割です。

ここで誤解されやすいのは、J-Adviserが「上場準備の実務をやってくれる」わけではない、という点です。J-Adviserは「何を整備すべきか」を示し、整備された結果を審査します。実際に規程を作り、書類を書き、月次決算を締め、社内を動かすのは、すべて会社側の仕事です。

つまりJ-Adviser契約は、宿題の範囲が確定した状態にすぎません。宿題をやる人が社内にいなければ、準備はそこで止まります。

会社側タスクの全体像(フェーズ別)

フェーズ1:体制構築期(契約直後〜数ヶ月)

最初にやるべきは、推進体制と計画の確定です。

  • 上場目標日から逆算したマスタースケジュールの作成
  • 社内の上場準備責任者(プロジェクトマネージャー)の任命
  • 監査法人の選定・契約(TPMは直近1期分の監査が必要です)
  • 税理士・社労士など既存の専門家との役割整理
  • 株主構成・資本政策の現状整理

この段階でつまずきやすいのは監査法人選定です。近年は監査法人側の受嘱姿勢が厳格で、内部管理体制が弱いと契約自体を断られることがあります。早めに動くことをお勧めします。

フェーズ2:整備期(もっとも長く、もっとも重い)

上場準備の中核です。J-Adviserからの指摘や調査票に対応しながら、管理体制を上場水準に引き上げます。

  • 月次決算の早期化(目安:翌月10営業日以内)
  • 予実管理の導入(予算策定と差異分析の仕組み化)
  • 規程類の整備(取締役会規程、職務権限規程、稟議規程など、一般に30〜50本規模)
  • 取締役会・経営会議の運営整備(議題設計、資料、議事録)
  • 内部統制の基本整備(決裁フロー、職務分掌、反社チェック体制)
  • 労務関連の整備(勤怠管理、未払残業の精算、36協定など)
  • 関連当事者取引の整理(役員貸付・オーナー個人との取引の解消)

このフェーズの本質は「書類を作ること」ではなく「作った仕組みを実際に運用し、運用実績を残すこと」です。規程は作っただけでは審査を通りません。運用された記録(議事録、稟議書、月次資料)が求められます。

フェーズ3:申請期

整備が進んだら、上場申請に向けた書類作成と最終確認です。

  • 特定証券情報・発行者情報の作成(有価証券報告書に準じた開示書類です)
  • J-Adviserによる上場適格性調査への対応(経営者・管理部門へのヒアリング、追加資料の提出)
  • 監査対応(期末監査、指摘事項の解消)
  • 東証への上場申請手続・上場日調整

特に負荷が重い3つのタスク

全タスクの中でも、会社側の負荷が突出して重いものが3つあります。

1つ目は特定証券情報の作成です。事業内容、リスク情報、財務情報を網羅する開示書類で、初めて書く担当者にとっては分量・専門性ともに高い壁になります。ひな形はJ-Adviserから提供されますが、埋めるのは会社です。

2つ目は月次決算体制の構築です。これまで年1回の決算しか組んでこなかった会社が、毎月10営業日以内に月次を締める体制へ移行するのは、経理フローの全面的な作り直しを意味します。経理担当が1名(あるいは兼務)の体制では、通常業務と並行して進めるのは現実的に困難です。

3つ目は指摘事項への対応です。J-Adviserと監査法人からは、準備期間を通じて継続的に質問・指摘・追加資料の依頼が届きます。これを一覧管理し、期限内に回答し続ける事務局機能がないと、対応漏れが積み上がり、スケジュール全体が後ろ倒しになります。

結局、「誰がやるのか」がすべて

ここまでのタスクを眺めて、お気づきかと思います。問われているのは「何をやるか」ではなく「誰がやるか」です。

上場準備には、全体を管理する責任者(プロジェクトマネージャー)と、実際に手を動かす実務者の両方が必要です。CFOや管理部長クラスの採用は競争が激しく、経理実務者との2名採用となれば年収合計は相当な規模になり、入社まで半年以上かかることも珍しくありません。N-2期に入ってから探し始めると、準備そのものが後ろ倒しになります。

社内に担い手がいない場合の選択肢は、採用か、外部への委託です。当社は、上場準備室の一員として会社側に入り、書類作成・監査法人/J-Adviser対応・社内調整・スケジュール管理を実務レベルで担う「上場PM代行」を提供しています。J-Adviser契約済みの企業からのご相談も承っています。

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藤 優之

この記事の執筆者

藤 優之(とう まさゆき)

株式会社バリューアップファクトリー 代表取締役。デロイトトーマツコンサルティング出身。事業会社の取締役CFOとして東証グロース市場IPOを達成し、上場2社を実現。北九州市立大学ビジネススクール(MBA)特任教授としてファイナンスとM&Aを教える。『TOKYO PRO Market 上場の教科書』『M&A企業価値算定の教科書』ほか著書多数。

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